三宅乱丈「イムリ」 連続レビューその1 彼は平凡な学生、のはずだった……。

(超軽量あらすじ)

 主人公「デュルク」が、支配民族「カーマ」の技術の中核を学ぶために呪学校へ入学する、ところから話は始まります。
 夢とキボーに期待をふくらませていたデュルクは、しかしそこでカーマの技術の「恐ろしさ」の一端を目の当たりにし、自らの生活を成り立たせていた色々な物、それに無自覚だった自分を省みるのでした。

 ……とか思っていたら夢の中で出会ったような女の子に抱きつかれたけど誰だお前?(続)


 9巻まで(あるいは連載で)読んでいる人なら、最新の展開で一番アツい「あれ」がこの時点ですでに登場していることに「おっ」って思うかも知れません。
 ……ていうか、2006年に描かれた内容から今の展開が一ミリもブレていないことがハッキリして、ビームの懐の深さに感心したりします
 それが結果的に文化庁の賞を取ったり手塚治虫文化賞にノミネートされたりするんだから、編集側の眼力と信頼、応える作者の構想と筆力、両方共パネェとしか云えないわ。1

(今の時点でまだ消化されていない伏線もガッツリあって「この作品どんだけだよ」と素で思います)


 その0でTOみたいな話って書きましたが、まだその片鱗もありません。
 火種は存在しますが、それが火種だということを、読者もデュルクもまだ知りません。
(だから薦めづらいんだよなーw)

イムリ 1巻 (BEAM COMIX)

著者/訳者:三宅 乱丈

出版社:エンターブレイン( 2007-07-25 )

定価:¥ 672

Amazon価格:¥ 672

コミック ( ページ )

ISBN-10 : 4757736363

ISBN-13 : 9784757736368


  1. どちらの賞も、出版社の「売りたい」事情よりも作品本位の評価で、その意味で(傾向に偏りはあれど)比較的信頼のおける賞だとは思います。その辺はそれ以外の受賞・ノミネート作品を見てみると察せられるでしょう多分。講談社とか小学館のどうでも良い賞とは一緒にすんな?
     ……というか、基本ドマイナーなこの作品をちゃんと評価するあたりは「判ってるな!!」って気分だわw []

三宅乱丈「イムリ」 連続レビューその0 要するにタクティクスオウガみたいな話だと思え

 9巻が発売になってましたね……。
 この辺でやっと、話の構成がハッキリして、他人に勧めやすくなるんすよ。

 ということで作品トータルのざっくりした話などします。


 要は、「架空世界の人種間対立、その双方に縁のある主人公が翻弄され苦悩しながら、やがて覚悟を決めて目指す道を歩み始める」的な話なのです。
 で、「架空世界」の人種・宗教・歴史・文化・政治、そこら辺の作り込みが半端じゃないんで、一見さんがさらっと読んだ程度だとついて来られない、みたいな話。
(とはいえ、話の根本は決して複雑ではないので、単行本で買って初回+もう一回読めば普通に理解できると思います)
(……正直、初回のみで読み返さないで全て把握できたらすごいとは思うわ)

 タクティクスオウガだってウォルスタ人とかガルガスタン人とかフィラーハ教といった固有名詞は出てきたと思いますが、ニュアンス的にはそんな感じです。
 ただ、TOでは「人種が違う」といったことは描かれていてもその価値観・文化の詳細にそれほど踏み込んでいなかったと思いますが(この意味でハードルがそれほど高くなかった)、本作では対立の根幹にその文化的な差異が絡んでくるので、「『架空世界』の人種・宗教・歴史・文化・政治」を避けて通ると話が成立しないのですね。


 ……話の概要としてはこんな紹介でOKでしょう。
 以後は個別に行きたいと思います。

 イムリは前述のように「作中世界を把握していないと読めない話」で、したがって画像で紹介するのにあまり向いていないです。
(すごく盛り上がる名場面も当然ありますが、「なぜそのセリフで盛り上がるのか」に解説が必要になってしまうのです)
 ということで、各感感想でも画像はあまり使わないと思います。


■各巻レビュー
 1巻 彼は平凡な学生、のはずだった……。

イムリ 1巻 (BEAM COMIX)

著者/訳者:三宅 乱丈

出版社:エンターブレイン( 2007-07-25 )

定価:¥ 672

Amazon価格:¥ 672

コミック ( ページ )

ISBN-10 : 4757736363

ISBN-13 : 9784757736368


イムリ 9 (ビームコミックス)

著者/訳者:三宅 乱丈

出版社:エンターブレイン( 2011-02-25 )

定価:¥ 683

Amazon価格:¥ 683

コミック ( ページ )

ISBN-10 : 4047270725

ISBN-13 : 9784047270725


イムリがヤバい。向こう10年ぐらいずっとヤバいかも知れないぐらいヤバい。

 今月のビームから。

イムリ 文化庁メディア芸術祭優秀賞受賞

2009年 文化庁メディア芸術祭 マンガ部門 優秀賞 イムリ | 文化庁メディア芸術プラザ 被ブックマーク件数
http://plaza.bunka.go.jp/festival/2009/manga/001213/
 これまでの内容とペース、そこから予測される「今後のありそうな展開」とその期間、を考えると、あと5年で終わる気はしなかったんだけど、どうも実際にそんな感じになりそうな気配。

 ……で、以下は前回の話を受けてイムリの内容に踏み込んでいきます。

 まずそもそも、タイトルの「イムリ」とは何ぞや、という点ですが、これはとりあえず「人種」あるいは「身分」と考えておけばとりあえずOKです。
 ……話が「作中の社会制度」にがっちり食い込んで進行するので、解説すると文字ばっかりになる上にネタバレを含むというのが紹介することのハードル上げまくってて大変。
 というか社会制度だけじゃなくて、歴史も絡むし「特殊能力」も要説明だし、作中の世界観が確固としすぎw(一応褒めている)

 1巻1話冒頭のモノローグを引用。
 ……露骨に説明っぽいのはここだけですのでご安心をw

イムリ
イムリ

 まず星が「ルーン」「マージ」と二つあり、マージでは「(賢者)?カーマ?イムリ?イコル」の階級社会がある、というぐらいの理解でよいです。
 カーマ/イムリ/イコルは順に、貴族/平民/奴隷といったところ。(やや違うんだけど細かくなりすぎるので割愛)

 そして「特殊能力」についてですが、これはこの作品のキモとなる要素です。
(我々にとっての)「催眠術の物凄いヤツ」が、技術として(あるいは文化として)存在するのです。

 技術としての呼称は「侵犯術」。
 術の内容は(例えばホイミ・ベホイミ・ベホマのように)ランク分けされており、弱い奴では「質問に答えさせる(自白剤のような効果)」、強い奴では「自律的な思考を奪い完全に奴隷化する(マインドコントロールの超強力な奴)」、といった具合です。
 ……ちょっと考えて判るように、野放図に使えば重大な問題を生みかねないので、「身分」と「習得することを許可された術ランク」が完全に規定されています。そもそもカーマでなければ習得できないのは当然ですが、その中でも中位以上の侵犯術を使えるのはほんの一握り。
 即ち、強力な侵犯術を使えるということは、エリートの証であると同時に下層民を支配するための圧倒的な力を持っている、ということでもあるのです。

 ……大雑把にここまでが、「世界設定」あるいは「作中のルール(表向き)」ということになります。
 これを前提としないとストーリーの内容に全く入れないので仕方がない。


 本編の主人公はカーマの青年デュルク。(上記の画像の最後のコマに出てきた人)
 彼は現在、術師養成学校に入学したところで、将来のエリート術師への第一歩を踏み出したところ1 、だったのですが……。

 ……このあたりで1巻中盤ぐらい、かな?
 以降は2009年の視点で語ります。(ネタバレは控えめで)


 まず、2008年末の時点では(俺の)「今面白い漫画リスト」にイムリは入っていませんでした
(面白そうだ、とか「何か凄そうだ」とは思っていたが、そこまで)

 というのも。

 上記「序盤の流れ」以降は、「なんだかんだでカーマの支配の悪逆非道さを知ったデュルクが、最初は成り行きで、しかし最終的には自分の意志でカーマの支配に対抗していく」、という流れになるのですが、上記の「最終的には」以降の展開は概ね2009年(単行本5巻末)以降なのですね。

 エンジン掛かるの遅いよ! とw

 いや、後から読み返してみても無駄な展開は全然ない、むしろ駆け足な印象を受けるぐらいなのですが、その大半は「情報」つまり、世界設定・キャラ紹介・キャラ間の関係描写に費やされていて2 、話が──デュルクの積極的な意思で──動いていかないのですね。
 だから、「凄そうではあるんだけどイマイチ盛り上がりに欠けるような?」という印象になってしまう。

 ……そして、必要な要素が一通り出揃い、キャラ間の因縁も一通り結び終わり、(読者の主観的に)満を持してデュルクが行動に移ったのが2009年だった、ということなのです。
 テンションが高くならない方がおかしい。


 知らなかったら読まないのも仕方ないんですが、しかし今あなたは、イムリが面白いということを知ってしまったはずだ3
 ならば!
 ……ということで、レッツリード・イムリ!
(ただし4巻ぐらいまではCPUのキャラ配置のターンのような感じなので肩の力は抜いておけw)

イムリ 1巻 (BEAM COMIX)

著者/訳者:三宅 乱丈

出版社:エンターブレイン( 2007-07-25 )

定価:¥ 672

Amazon価格:¥ 672

コミック ( ページ )

ISBN-10 : 4757736363

ISBN-13 : 9784757736368


イムリ 2巻 (BEAM COMIX)

著者/訳者:三宅 乱丈

出版社:エンターブレイン( 2007-07-25 )

定価:¥ 672

Amazon価格:¥ 672

コミック ( ページ )

ISBN-10 : 4757736371

ISBN-13 : 9784757736375


イムリ 3 (BEAM COMIX)

著者/訳者:三宅 乱丈

出版社:エンターブレイン( 2008-01-30 )

定価:¥ 672

Amazon価格:¥ 672

コミック ( ページ )

ISBN-10 : 4757739702

ISBN-13 : 9784757739703


イムリ 4 (BEAM COMIX)

著者/訳者:三宅 乱丈

出版社:エンターブレイン( 2008-06-25 )

定価:¥ 672

Amazon価格:¥ 672

コミック ( ページ )

ISBN-10 : 4757742975

ISBN-13 : 9784757742970


イムリ 5 (BEAM COMIX)

著者/訳者:三宅 乱丈

出版社:エンターブレイン( 2008-12-25 )

定価:¥ 683

Amazon価格:¥ 683

コミック ( ページ )

ISBN-10 : 4757746113

ISBN-13 : 9784757746114


イムリ 6 (BEAM COMIX)

著者/訳者:三宅 乱丈

出版社:エンターブレイン( 2009-06-25 )

定価:¥ 683

Amazon価格:¥ 683

コミック ( ページ )

ISBN-10 : 4757749341

ISBN-13 : 9784757749344


  1. キャリアで中央官庁に入るのに近い、かな? []
  2. 上記要約箇所においては、キャラクター設定・相関図に絡むところは意識的に排除しています []
  3. オマージュでありますw []

2009年の面白かった漫画の話。(2) 「鋼の錬金術師」「イムリ」

 テーマが錯綜して良く判らないことになりつつありますが「2009年の面白かった漫画」の前回はこちら

「鋼の錬金術師」「イムリ」と並べたのは「面白さの性質が同系統」だと思うからで、今回の記事はその共通する性質の話。
 ハガレンは今更突っ込んだ話をしてもしょうがないと思うので軽く流して、イムリの話は次回に続く(かも)。


 まずは例え話ですが、「歴史」が好きな人って居ますよね?
「武田と上杉の因縁」だったり「西郷の怒り」だったり「ハプスブルク家の策略」だったり、日本史でも世界史でもいいんだけど、「それは何で面白いのか」という話。

 一つ、縦軸に「『社会の仕組み』がそうなるに至った歴史」があり、他方、横軸に「その時点での社会制度に根ざした『支配・被支配』等の関係」があり、そういう座標平面上の何処かに「(目標を持った)視点人物」が配置される、という構造。
 そういう時、視点人物の行動がストレートに社会制度に対立したりあるいは乗っかったりし易い、云い換えると「(話の本筋のリアリティを保ったまま)話が濃く・大きくなりやすい」と。

 前述の2作品の面白さの根っこはここにある、と思います。
(例えば「アメストリス建国の秘密」であり「カーマの支配の秘密」、ということです)

「歴史を設定すれば話が濃くなら皆やれば良いじゃない?」って話ですが、読者に理解できる程度にみっちり「作品世界の歴史」を開陳すると、普通は「説明的で鬱陶しい」「固有名詞羅列で読者置き去り」になってしまいます。
 エンターテイメントとしてのテンションを保ったまま読者に「作品世界の歴史のお勉強」をしてもらうのは、そんなに簡単に出来ることではない、はずです。

 ハガレンは現在クライマックスへ向けて怒涛の盛り上がり中、イムリは(多分)「コマを盤上に配置し終わり、いよいよ本編スタート」ぐらい、どちらも読んで損はねーので是非読め
(去年のこの時期にイムリはあまり念頭に無くて、それは「話が本格的に盛り上がってきたのは去年末?今年に入ってから」だからなのね。その辺の話は次回に)


 ……で、今度は「面白い漫画」の話の続きとして語りますが、ハガレンやイムリは「漫画として面白い、訳ではない」のです。1
「漫画的に云々」という次元の話ではなくて「フィクションのバックグラウンドの作り込みが圧倒的」ということ。だから、映像化・小説家等を行ったとしても、スポイルされてしまうものはそう多くないと思います。
(本来の構想が作者の頭の中にある以上、そして作者が漫画家である以上、「別形式だったら」という仮定にあまり意味はありませんが)

鋼の錬金術師 (1) (ガンガンコミックス)

著者/訳者:荒川 弘

出版社:スクウェア・エニックス( 2002-01 )

定価:¥ 420

Amazon価格:¥ 420

コミック ( 179 ページ )

ISBN-10 : 4757506201

ISBN-13 : 9784757506206


イムリ 1巻 (BEAM COMIX)

著者/訳者:三宅 乱丈

出版社:エンターブレイン( 2007-07-25 )

定価:¥ 672

Amazon価格:¥ 672

コミック ( ページ )

ISBN-10 : 4757736363

ISBN-13 : 9784757736368


  1.  判りにくいと思うので一応補足しておきますが、「漫画として云々」ということそのもの・それ自体には、意味も価値もありません。
     単に、「作品を評価するときの観点」としては説得力のある分析を行うためのトリガになりうる、というだけのことです。 []

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