これも本ミス経由(参照)。
同じく本ミス経由で読んだキッド・ピストルズについて「カッコイイ!」って書きましたが、こっちもカッコイイです。
……ただし、その方向性は真逆。
判り難い──ひょっとしたらむしろ凄く判り易い──例えをすると、ピストルズのカッコよさは保志総一朗のカッコ良さで本作のカッコよさは緑川光のカッコよさ。
(そして脳内にはカズマと劉鳳1 )
5話収録の短編集。
明確な「主人公」というのは存在していないものの、共通して登場するキーワードはあって、それが「結城中佐」そして「D機関」。
結城中佐は軍人でD機関の生みの親、そしてD機関とは「大日本帝国陸軍内の諜報専門組織」、要はスパイ部門、です。
スパイに求められる心構え、それを結城中佐の台詞から引用。(ちょっと長いです)
忘れるな。ここはスパイ養成学校だ。この連中はここを出た後、世界各地に散らばって、自らを”見えない存在”としなければならない。外交官にくっついて行って、二、三年で帰国するお気楽な武官などとは訳が違うんだ。十年、二十年……あるいはもっと長く、見知らぬ土地にたった一人で留まり、その地に溶け込み、”見えない存在”となって、その国の情報を集め、本国に送る仕事に従事することになる。誰にも自分が何物なのかを知られず、状況が変化しても誰とも相談することができない。スパイがその存在を知られるのは、任務に失敗した時──即ち敵に発見された時だけだ。失敗しないためには一瞬の気の緩みも許されない。それがどんな生活なのか、貴様に想像できるか?
諸君の未来に待っているものは、真っ黒な孤独だ。孤独と不安。やがて自分自身の存在すら疑わしく思えてくる。そこでは、外部に支えられた虚構<フィクション>など、砂でできた城のように時間とともに崩れてゆく。その時点で、たいていの者は任務を放棄し、敵に発見され、あるいは寝返り、さもなければ気が狂うだろう。
どうよスパイ根性。
こういう究極条件を想定したスパイ部門、とそのスパイのお話な訳。
途中数回出てくる「”見えない存在”」ってのは、「目立ってはいけない」ってことですね。
事件を起こしてはダメ、注目を集めてはダメ、殺したり殺されたりなんて論外、と。
「あいつはスパイなんじゃないか?」と疑われたらもうその時点でアウト(証拠がどうこうという問題ではない!)、気付いたときには終わっている……ではなく「そもそも気付かせない」、そういうこと。
5つの事件は「敵のスパイとの(広義の)対決」が3編と「ピンチからの脱出劇」そして「D機関の卒業試験」と、いずれも「スパイらしい」内容ではありますが、扱う事件そのものよりも、事件の最中に幾度となく語られる「スパイの心構え」周辺がもう超絶クールでたまりません。
クールというか「緊張感の塊」? なるほどこの緊張感は普通の「殺人事件」を扱った小説とは異質だな、と。
という訳で、どんでん返しとか論理ゲームとか、そういう「推理小説的な」方向を期待するとちょっと違うかもですが(普通に良く出来てはいる)、「本格」と付かない「ミステリー」としては間違いなく一級品。
第二段シリーズの短編も執筆中みたいですが、普通に買う。
「このミス2位」というのは、納得です。
(本ミスベスト10入りでもおかしくない、という気はする)
著者/訳者:柳 広司
出版社:角川グループパブリッシング( 2008-08-29 )
定価:¥ 1,575
Amazon価格:¥ 1,575
単行本 ( 252 ページ )
ISBN-10 : 4048738518
ISBN-13 : 9784048738514
- 蛇足以外の何物でもない [↩]




