[単行本] 道尾秀介 ≫ 向日葵の咲かない夏

 時節柄、「うみねこのなく頃に」を頭の片隅で意識しながら書きます。
(読むときは別に意識しませんでしたが)

 道尾秀介は、現時点では一番「勢いのある」「本格作家」(のひとり)だと云っていいでしょう。ラットマン1 とカラスの親指2 は両方とも今年の本ミスで上位に入ってくるのではないかと思います。
 なんだかんだで「シャドウ」以降の単行本は一通り読んでいて、それ以前の作品も読んだ方が良いのかな、と思っていたらちょうど文庫落ちしたのでじゃあそれ、ってことで読んでみたのが本作ということになります。

 始まった直後にあらビックリ、幻想趣味、というかホラー趣味、というか。
 割と──かなり?──ぶっ飛んだ内容が全く普通の事として流れていくというのは、却って非現実感を際立たせるというか、作品の舞台が全面的に夏で、向日葵が咲いて蝉が鳴いて、という環境下での「現実感の希薄な内容」というのは、ちょっとした酩酊感とか不安定さ、ひいては恐怖感を演出するには十分です。

 具体的に云うと、「3歳の妹と主人公が『事件』について議論している」「死んだS君が蜘蛛に生まれ変わってやって来て主人公と議論している」あたりが最大。(これらは話の極々序盤の内容で、それほど重大なネタバレではない)

 そして、町では犬や猫が殺されるという事件が連続して発生中です。

 他にも細かい違和感は色々あって、町では犬や猫が殺されて、3歳の妹と転生したS君と議論して、太陽ピーカンで蝉鳴いて向日葵咲いてんですよ?
 ……伝わるかなぁ、この静かな狂気・恐怖感。

 話の興味は形式的には「犬猫殺し事件の犯人は?」「S君の死の真相は?」といったあたりになるのですが、俺としては「この世界」への違和感と、「この世界の真相」がいつ・どういう形で明らかにされるのか、の方が気になりました。3

 で、冒頭でさらっと触れたうみねこを彷彿とする点ですが、「現実に事件が起きている」「現実は主人公にとって切迫しているが、にもかかわらず現実感が希薄である」「事件以前に舞台の方に強烈な違和感がある」あたり。
 勿論、戦人とベアトの屁理屈合戦みたいなものはないですが。(なぞらえるなら、ベアト不在で読者がメタ戦人役)
 前述のように「世界への違和感」の方は表立っては問われないのですが、この点を全く意識せずこの小説を読む人はまず居ないでしょう。それぐらい、世界の歪みっぷりは強烈です。

 狂った世界の狂った事件がどういう風に落ち着くかは読んでみてのお楽しみですが、「道尾秀介もこんなの書くんだ」「こういう『狂った世界の片付け方』かぁ」という2点については特に面白い、あるいは興味深かった、です。

向日葵の咲かない夏 (新潮文庫)

著者/訳者:道尾 秀介

出版社:新潮社( 2008-07-29 )

定価:¥ 660

Amazon価格:¥ 660

文庫 ( 470 ページ )

ISBN-10 : 4101355517

ISBN-13 : 9784101355511


  1. 感想 []
  2. 感想 []
  3. この点では、方向としては概ね予想通りでしたがその徹底ぶりは予想の上を行かれました。 []

[単行本] 道尾秀介 ≫ カラスの親指 by rule of CROW’s thumb

 全力で素晴らしかった。

 葉桜が5年前(wikipedia)ですかー。
 小説読んでの「動揺の激しさ」としてはアレに匹敵するというかアレ以来、というか。(後述)
 ガチガチのガチでお薦めであります。

 ……葉桜を引き合いに出しましたが、あちらにもこちらにもネタバレにならないように書くと、「アウトローな主人公(たち)が、敵の悪徳業者に対して戦いを挑む」みたいな構図が重なる、ということです。
 文章の読みやすさとか、オーラスの読後感の爽やかさ(陳腐な単語でいうところの「感動」)なんかも、近いといえば近いでしょうか。こっちの方がより切ないですが。

 以下、主要人物。

 主人公は武沢竹夫(タケさん)。ヤミ金とのトラブルを経て妻子を亡くし、何だかんだあって今では詐欺師。
 相棒は入川鉄巳(テツさん)。ヤミ金とのトラブルを経て妻子を亡くし、何だかんだあって今では詐欺師。
 ある日二人で「お仕事」をしていたら、目の前で「同業者」の少女(まひろ)がなにやらお困りの様子。その場の流れで助け舟を出したら、実は彼女の母親は過去にヤミ金の取立てが原因で自殺していたことがわかって……。

※この先、中盤までのストーリー展開にガッツリ触れます。
 ネタバレにはあたらないと思いますが、気にする人はここで引き返してください。

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[単行本] 道尾秀介 ≫ ラットマン

 今年になってから漫画の感想あんまり書いてねぇなぁと思いつつまたミステリ話です。
(雑誌のは書いてるけど)

 傑作です。ただし、ちょいとハードでビターです。
ようこそ。ここが、青春の終わりだ。」という惹句が良い。

 登場人物とか舞台の説明。

 高校以来のアマチュアバンド1人組。スタジオ。その経営者とスタッフ1名。
 主人公はバンドの1人。ずっとバンド内の娘と付き合っている。彼女は今ではバンドを抜けてスタジオのスタッフになっていて、バンドの後任には彼女の妹が入っている。付き合いはまだ続いていて、つい最近子供が出来たと知らされたところだった。
 経営難のため、年内でスタジオを閉めるそうだ。
 年末に最後のライブを控え、その日は最後の練習日となるはずだった。

 ……現在の外形的な状況設定としてはこんな感じかな。
 その最後の練習日に「事故」が起こって、さてその真相とは、というのが話の本筋。
 主人公の過去には込み入った「事件」とトラウマめいたものがあって、これはミステリ的にガッツリ本筋に絡んでくるのですが、ここに書くには複雑過ぎるので割愛します。

 この先、派手にネタを割るのでRSSには流しません。(RSSだとネタバレ回避が効かないんだよね)
 凄いから俺の感想とか読む前にとにかく作品の方を読め、と強調しておいて、それでも感想読みたい人はじゃあ先をどうぞ。

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