高野和明「ジェノサイド」 内なる町山智浩が「でも、やるんだよ」と囁いている

・いい作品ではある
・微妙に読者を選ぶ
・「町山智浩」「でも、やるんだよ」に心当たり1 がある人には、割と直球で「そんな感じの話」だと云っておきます。
(なぜここでその話になるのかは後述)
 以上、前置き。

 ストーリーは、主に三者の視点を行ったり来たりする形で語られます。
 米国情報機関(ルーベンス)、アフリカに派遣された傭兵(イェーガー)、日本の大学院生(ケント)、です。
(情報機関と傭兵は、「情報機関があることを知る⇒そこで決定された作戦のために傭兵が派遣される」という関係にあります)

>>
 何処まで踏み込んで語るかが割と難しい。
 割と早期に上記の「あること」が明らかになり、以後はその「あること」が話のキーになるのですが(というかそこからが本編)、その正体自体もそこそこ「意外」と云っていいようなものなので、それを伏せたままだとあまり本編に踏み込めないのですね。
<<

 で、踏み込まないことにします。
 以下は話のストーリーラインに直接は関係ない部分の話。
(注意深く読むと「あること」が察せられるかも知れませんが、注意深く読まないでください)

 話は米国情報機関が「人類を絶滅させるかもしれないもの」の情報を得たことから始まります。
 で、調査と殲滅を目的として傭兵が派遣されるのは、コンゴ。(≒ルワンダの隣国)
 そこで彼らは何を見ることになるのか……?

 一方、日本の学生は、父親が亡くなってその葬儀を終えたところだった。
 バタバタした作業から解放されて日常に戻ろうとしたところで、溜まっていたメールの中に、(亡くなった)父親からのメールを発見する。
 そこには奇妙な指示が書かれていた……。

 ……といったイントロから入り、生前コンゴに行ったことがある父親の行動がフックとなって傭兵と学生の行動がシンクロしてくることになります。


 わざわざ「ルワンダの隣国」と書きましたが、その段階ではそれほど町山智浩感(なんだそれ)はないです。
(「でも、やるんだよ」は「ホテル・ルワンダ」という映画への評論に端を発した騒動の中で出てきた言葉です)

 でも、この映画の1つのテーマに「ジェノサイドはなぜ起こるのか」的な問いがあるのは間違いありません。
 話がまだ佳境に入る前のあまり重要ではないエピソードとして「伯父と祖父が特に面識もない朝鮮人を痛罵して、それにケントが嫌悪感を覚えたこと」が挿入され、中盤以降で貴重な味方として登場するのは韓国人の学生であり──彼が韓国人だからケントが朝鮮人に悪感情を持っていないことを書く意味はありますが、話の必然性としては韓国人である必然性がそもそもない──、終盤、ルーベンスが米国大統領を見て考慮した一節を見るに至り(後で引用)、「『あること』よりもむしろその問いの方が話の本筋」であることに疑いはありません。

 以下、ルーベンスが考えた内容(P433、地の文として語られます)

(略)説得を成功させるためには、大統領が何に対して恐れを抱き、怒りを向けているのかを見定める必要がある。まずは人種差別異識だろうかと考えてみた。ネオナチや白人至上主義写など、己の暴力衝動を政治思想に仮託する似非右翼には、共通の心性がある。自尊心の歪んだ発露である。彼らは生育歴などの問題から自己を直接肯定することができないため、自分の所属する集団を全肯定した上で、その集団の成員である自分は素晴らしいという論法を取る。しかし実際は、彼らの関心が自分自身にしか向けられていないのは明白で、その証拠に似非右翼の攻撃は主義主張に異を唱える同胞たち、全肯定してみせたはずの集団のメンバーにも向けられる。

 これ2chやblog記事に張ったらビチビチ釣れそうよね?w
(固有名詞がほぼ出てこないことに注目されたい)
(大統領が最終的にどう行動してルーベンスがそれをどう評価するかは、置いときます)

 そんなんであるから、

56 名前:名無しのオプ[sage] 投稿日:2011/06/04(土) 13:56:53.11 ID:a56FvfQj
ジェノサイド読んだけどミステリじゃないよね
中途半端に著者の思想をこめないでほしかった
テーマは重いのに踏み込み方が幼稚すぎて読んでていちいち萎える
エンタメとして面白いものを書く力量がある人なんだなというのはわかるのに
あんたがあの国が嫌いだっていうのはわかったからもういいからハイハイという感想に
なってしまった

 こんな評価も付くw
(狭義のミステリではないという意味では本ミスよりこのミス向きではありその点は同意しますが、他の指摘は「作者はアンタのパパじゃない」で終わる話かと思います)


 俺としては前述のとおり「いい作品ではある」「微妙に読者を選ぶ」と思います。
 それは、「ストーリーラインがそもそも読者を選ぶ」のではなく、「そのストーリーラインを語る際に、もっと穏当で当たり障りのない設定・表現を選ぶことは可能だっただろう」、ということです。

 でも、やるんだよ

 ……ま、そういうことですw
(補足は不要だよね?)

ジェノサイド

著者/訳者:高野 和明

出版社:角川書店(角川グループパブリッシング)( 2011-03-30 )

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単行本 ( 590 ページ )

ISBN-10 : 4048741837

ISBN-13 : 9784048741835


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